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Between black & white/小林一毅

グラフィックデザイナー・小林一毅氏との協業による「TEXTILE ART COLLECTION」。
小林氏が「生活の記録」として日々描き続ける図案を、テキスタイルで表現し、アートピースへと昇華させました。テキスタイルは長い年月にわたり人々の生活に寄り添い、ぬくもりや柔らかさといった情緒をもたらしてきた存在です。小林氏の中から立ち上がる生活の記録、日常にある世界のかけらをテキスタイルアートとして取り入れる。個人の視点で生まれた図案による「生活の記録」は、その身近さゆえに共感を呼び、生活することの心暖まる美しさを改めて教えてくれるように感じます。
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  • 子供と過ごしていると、白黒がつかずにわりきれないと思うような状況に度々出会う。石と言われてコンクリート片を渡されたり、見えないおともだちの話をされたり。子供の描く絵にしても、描かれている形や線からは読み取ることのできない彼女だけに見える情景が確かにあるということを彼女の語りが教えてくれる。その度に今見えていることだけが私の今を形作っているわけではないことに気付かされるのである。子供から差し出されるものに対して、これは何だろうという問いから始まって、それに対する明快な答えが見つからないのは分かってはいつつもその想像に収束する気配はない。そのあやふやで不明瞭な輪郭を、描くことによって分別をつけるようなことを続けている。主な題材は子供と遊んでいたり、散歩していたり、家事をしている最中に見つけたものだ。殆どが徒歩圏内の光景だから、私たちの身の回りにある変哲もない景色は見方次第でいくらでも面白く見えるようになるのである。
  • 画を描くときはアイボリーケント紙に鉛筆で下絵を描き、黒のペンで墨入れをする。鉛筆の下絵は描かずに直接墨入れから入る時もあるが、いずれも題材に対する事前の観察から始まる。そのとき今そこに見えている形はそのまま留まってくれるわけではなく、把握したその瞬間どこかへ消えてしまう。例えば水面の様子を描こうと思っても肉眼での観察では詳細の形は容易には把握できないから一定期間その場にとどまったり、何度も通って日数をかけて見つめることでできるだけ多くの形を記憶していく。このようにして得られた個別のイメージを組み合わせながら、それらしい形に落とし込む作業を繰り返すことによって平均化された全体的なイメージを画にしている。
  • とにかく繰り返し描いている。淡々とした作業で、洗濯物を干したり、食器を洗ったりするのと同じくらい当たり前のことだ。子供の方は外で遊ぶか、おままごとをするか、工作をするか、絵を描くかが家での基本的な過ごし方だ。大人と子供という分別をなくせば、絵を描くことや作ること、遊ぶことも、本来は家事と同じように基本的な生活の中のできことなのだろう。そう考えたら子供が描いた絵を飾るというのもよくやることだから、絵を飾ることも、飾るための絵を描くことも普段の行いであってそれ自体特別なことではないかもしれないが、それでも絵を飾る時の高揚感は特別だし、そうした心をたかぶらせるような力が絵にはあるのだろう。飾った絵は日常の風景になるが、たまに思い出しては生活の中の出来事について、考えてみるきっかけになるようなものであれば嬉しい。

    小林一毅
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